第6章 意気地無しのくせに。【森山由孝】
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近くで、もうひとつの鼓動が聞こえる。
それは、私のよりも速くて、とても力強かった。
恐る恐る目を開くと、壁に寄りかかって手すりを握りしめる森山が、目の前に居た。
『・・・あ、もりや』
「謝らなくていい」
・・・・・・怒って、る・・・?
初めての森山の怒気に、心臓が締め付けられたような感覚がした。
困惑と同時に現れたのは・・・申し訳ない、という気持ち。
一歩間違えれば、森山まで怪我するところだった。
最悪の場合、骨折とかしてたかもしれない。
私の軽率で身勝手な行動のせいで森山が怪我でもしていたら・・・
と思うと、自分が腹立たしくなる。
「・・・気を付けろよ」
『あ・・・うん』
謝らなくていい、なんて言われたら、どう話せばいいのか分からなくなる。
背中を離れた掌は、私の腕を掴んだ。
背筋に水を浴びせられたように伸びて、肩までもが跳ね上がる。
「・・・すまん」
掌は腕を伝って、肩までのぼって。
ぐっと、押さえつけられた。
『・・・っ』
何をされるのか分からない恐怖心と、ちょっとの・・・期待・・・とか。
複雑な感情が入り交じって、全身を染めていく。
『・・・』
ぎゅっと目を瞑る。
「・・・・・・怪我はないな。
・・・足、痛まないか?」
『・・・っえ・・・あ、うん。ありがとう・・・』
そのまま手は離れ、落ちていた鞄を拾ってくれた森山。
そして数歩先を進んでいった。
・・・・・・え?
・・・何も・・・無し?
いや、そりゃ別に何も無いとは思ってたけど・・・なんていうか・・・
・・・少し、期待したのに。
「・・・? 何してるんだ? 早く帰ろう」
『・・・うん』
あっけらかんとしてるよコイツ!
な、何なんだよ・・・!
確かにこんな公共の場で軽率なこと出来ないけどさ!!
・・・でも・・・。
・・・ちょっと、考えちゃったじゃんか。
・・・いつも、いつもいつも私ばっかり。
森山にドキマギしてるのは私だけ。
余裕ばっかりある森山と違う。
女の子の扱いに慣れてる森山とは違う。
・・・それが、少し・・・悔しい。