第6章 意気地無しのくせに。【森山由孝】
維side───────────---
何てこと無い平凡な日常。
特に何もないつまらない一日。
───って、そんな訳がなくて。
・・・悩みの種が、もうひとつ増えてしまった。
「っ何で逃げるんだ、維!」
『何で追っかけて来んのよっ、森山!』
・・・どうして、こんなことになったの?
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事の発端は30分ほど前。
図書委員の仕事をこなしていた時だ。
「・・・維」
『・・・あ、森山』
珍しく、図書室に姿を現した森山。
その横や後ろにいつものメンツは無く、珍しいこともあるもんだと感心していた。
片手に参考書、そしてもう片方をポケットに突っ込んだ彼の掌は、やっぱり大きい。
『どうしたの?
・・・あ、勉強?』
「・・・それもある」
・・・それ、も?
彼が勉強以外で図書室に来ることなど、無かったはずなのに。
『・・・じゃあ、』
───唐突に。
言葉を飲み込むように・・・遮るように。
唇が奪われた。
ふんわり、
そんな感じ。
変な感覚で、ここがどこなのかさえも曖昧になるような。
パッと目を開くと、目の前に森山の端正な顔が浮かんでいて熱が集まってきた。
『っちょっと!!!』
「!」
・・・危ない。
ここは図書室。私は図書委員。
公共の場でしていいことじゃない。
『何してんの、ばか!
用がないならさっさと帰っ、』
「維に会いに来た」
『そ、そういうことじゃなくて、』
そこまで言って、下校時間のチャイムが鳴る。
どこからか「仕事終わって良いわよー」という声がした。
『・・・とにかく! もう帰るよ。
部活無いからって変なことしないで』
森山からの返事はなかった。