第6章 意気地無しのくせに。【森山由孝】
「───!!」
『ま・・・待っ・・・っ』
勢い余って腕にしがみついてしまった。
なんとまぁ・・・カッコ悪い。
だけど、それ以上に。
『(憤死しそう・・・っ!!)』
耳の先まで熱くなっていく。
気温とか、そういうものじゃなくて。
体の芯から、沸騰していくような熱さだった。
驚いた顔がその目に私を映したとき。
心臓が位置を変えるかのように、ドクンと脈打った。
「・・・やっぱり、何かあったのか?」
『!』
・・・何かあった、って、訳じゃなくて。
ずっと、こうしたくて。
・・・なのに、届かない。
もどかしい、煩わしい。
なのに、何もできない。
そんな自分も、もどかしくなる。
「・・・どうした?」
残酷なまでに、優しい声。
『えと・・・』
残酷なまでに、見つからない言葉。
瞬きすら惜しくなるほど、この時間が恋しくなる。
まだ───・・・、
『・・・もう少し・・・居てくれないかな・・・なんて・・・』
─── 一緒に居たいんだよ。
視界の端で、ライトが光る。
バイクのエンジン音が、耳を掠めた。
『っ・・・・・・──ぅえ!?』
そう、思った瞬間。
門の奥へと、腕を引かれた。
『ちょ・・・』
「鍵。出してくれないか」
『え』
唐突に、言葉が遮られる。
その声が、今まで聞いたことも無い声で。
反射的に、鍵を差し出していた。
「・・・お邪魔します」
『え、え・・・』
後ろ手に扉が閉まる。
先程見かけたライトが、扉の向こうで光を放っていた。
カーテンも閉めていない、薄暗い空間。
いつもの家と同じはずなのに、違う人の体温があるってだけで色を変える。
後頭部と背中に回された掌が熱い。
耳元で溜め息が響いて、体が強張ってしまう。
・・・呆れた、かな。
不安と期待が入り交じって、ドクドクと心臓を鳴らす。
森山に聞こえていそうで、気が気でなかった。
「・・・維」
『は、はい・・・!』
溜め息混じりに呟かれる言葉。
心臓が、痛いくらいに鳴っている。