Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第2章 彼女の世界
部屋の外に出て、そのまま右へ廊下を進み突き当たりへ。趣味が古いと言わざるを得ない装飾の扉を開けば1人がギリギリはいれるくらいのバルコニーの先に夜空が広がっている。
冷たいという程ではないがまあまあ温度の低い夜風が頬を撫でていき、気持ちよさそうにヒルドルは目を閉じてみた。
しかし脳裏に過ぎるのはここ数年と長く頭を悩ませている数枚の書類だ。
数人の経歴を白い紙に所狭しと書き込まれたそれらを一度読むだけでは飽き足らず、恐らく数ヶ月はかけて何度も何度も読み返したと思う。一字一句間違えず諳んじることが出来るほどに。その上で上層部から迫られている決断は少なくとも人ひとりの生き死にを決めうる物なのだと思うと二の足を踏んでしまう。
ライナー・ブラウンは卓越した才能に恵まれた人間だとはお世辞にも言えない。
だが、その執念と忠誠と努力量、そして忍耐強く優しい心根は信用に足る。
名誉マーレ人という称号に対する……詰まりは、それにならなければならないという強い想いを自分は嫌という程直接見たし軍部の上層部だって認識しているはずだ。
だがそれでもなお、ライナーに鎧を保持し、任務がこのまま任務を果たすことが出来るのかという大きな疑問が残っているのだという。
一度与えられた巨人は死ぬまで失うことは出来ない。逆に言えば、一度得た知性巨人を失うのは死ぬ時だ。
だからこそ選別には慎重になるべきだし剥奪にも慎重になるべきなのだ。そこには人の生死が関わるのだから。
なのに、エルディア人には人権はないも同然で、同じ人間だと認めようともしない。
あまりに難しい、難しい決断だ。
「どうするのが正しかったのか、なんて……結局最後の最後にならなきゃわからないのにね」
その分からないもののためにこれだけ長い年月悩み続けているのだから、無駄なのではないかとも思ってしまう。
ヒルドルは、何度目かわからないため息をまたひとつついた。