Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第9章 止まった時間
ライナー・ブラウンは、ふと考えるようになった。
彼女は、どんな気持ちで俺を育てていたんだろうか——
自分を鍛え、導き、戦士としての誇りを持たせてくれた#NAME1・メニヤ。
彼女は最初から、ライナーに鎧の巨人を継承させるつもりだった。
それは、誇り高き戦士の使命であり、マーレへの忠誠の証だった。
けれど、それだけだったのだろうか?
もしそれが全てなら——なぜ、あの時、彼女は涙を流したのか?
「ねえ、ライナー! もっと候補生の頃の話を聞かせてよ!」
そんな無邪気な声に引き戻される。
ガビ・ブラウン。
彼の従妹であり、誰よりも才能に恵まれた少女。
明るく、自信に満ち、まっすぐに鎧の継承を目指している。
かつての自分と、まるで重なって見えた。
「ライナーが戦士候補生になった頃って、どんな感じだったの?」
「俺は……落ちこぼれだったよ」
「えぇ!? ウソでしょ?」
ライナーは苦笑する。
ガビは目を輝かせ、彼の過去を知りたがる。
候補生時代の話をせがみ、憧れの存在としてまっすぐに慕ってくれる。
その好意を素直に受け止める一方で——彼の心の奥には、どうしても消えない疑念が生まれていた。
(俺も、あの頃はこうだった……)
ヒルドルを追いかけ、認められたくて、夢中で努力した。
何も疑わずに「戦士になりたい」と願っていた。
それが、何を意味するのかも知らずに——。
きっといつか、俺も誰かに鎧を継承することになる。
そして、それはこのガビになるのかもしれない。
(でも……それでいいのか?)
戦士として選ばれることは、名誉だと教えられてきた。
マーレのために戦うことが、彼らの役目だった。
それでも——本当に、この幼い従妹に、そんな残酷な運命を背負わせるべきなのか?
ヒルドルの涙を思い返す。
彼女があの時、何を思って泣いたのか。
同じ立場になったからこそ、痛いほどわかった気がする。