Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第3章 彼の世界2
「言葉じゃ伝わらない、か……」
ベルトルトは小さく物憂げに呟いた。彼にも何か、思うところがあるかのようだった。
「なんだよベルトルさん、お前もそういう相手いんのか?……なんてな、あんだけアイツとくっついて回ってるならそんなことありえないか」
からかうような言葉と共に、ユミルの目はこちらを射抜く。
「殺人鬼、なんだろ私達は。とは言ったって私とお前らじゃ規模が違いすぎるけどな」
「何が言いたい」
唸るようにライナーは続きを促す。
彼女はいつだってそうだった、核心を突こうとするときは必ず話題が明後日を向く。
言いたいことがあるのに、直接的に話そうとしないのだ。
だが、その急かすようなこちらの言葉にユミルはフッと目から力を抜く。次にその目に浮かんだのは……信じられないことに、憐れみだった。
「かわいそうだよな、お前らは。私と一番を争う程度には、かわいそうだ」
「……え」
ベルトルトの間の抜けたような声。
彼もまた、ユミルの突然の言動に驚きを隠せなかったらしい。
だが誰も、彼女の言葉に反論しようとしなかった。あのジークですら、自分達はかわいそうではないとなぜか言えなかったのだ。
「どうしようもなかった。選べなかった。渡されたカードを、言われるがままに切ることしかできなかった。その結果、取り返しのつかない命をたくさん奪った。私はお前らの仲間の命を。お前らは壁の中のたくさんの、エルディア人を。そこの……なんだっけ、戦士長?あんたもそうなんだろ」
彼女が言葉を紡ぐ度に何人もの面影が目の前をよぎっていく。
顔を見たことはないから想像になるが、エレンの母親が。
アルミンの祖父が。
ミーナが。
マルコが。
そんな中、言葉を向けられたジークが明後日を向いたまま「さあね」ととぼけるのが聞こえた。
かわいそうだなんて、自分達のことを称する人間はいなかった。
マーレのエルディア人は自分達を英雄と呼んだ。近しい家族ですらが。
マーレ人は、自ら言い出したことだからこちらのことを名誉マーレ人として同列の称号を与えながらも、それでも無言でバケモノと蔑んだ。
壁の中のエルディア人は、ただ人類の仇と吐き捨てた。
それが、未来と引き換えに巨人の力を抱いて刹那を生きることを選んだ人間の末路なのだ。
「全ては祖先が悪いんだって叫べたらどんなにいいだろうな」
