Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第3章 彼の世界2
「……つまり、座標の奪取には至らなかったって?」
丸メガネの向こうに冷たい双眸がある。
本能的に、この男に自分の力が叶わないことは察していた。
恐怖と、そして憧れと。
相反するようでいて案外同時に存在しうる感情を胸の奥に持って、ライナーは彼と相対していた。
「はい。殆ど成功したも同然でしたが、最後の最後に奪い返され……そして座標も覚醒してしまい。無垢の巨人から逃れるだけで精一杯でした」
「それでさ、君らが持って帰ってきたのってそれだけだろ?」
彼の指の指し示す先にはユミル。それ、とまるで物に対するような言葉だが誰も反論はしない。
当然だ。彼の指すそれ、とはユミルを指していない。
ユミルがその体に秘めた力のことだから。
「始祖の巨人でもなければ進撃の巨人でもない。ただ、君らの失態で奪われた顎の巨人が再び戻ってきたってだけだろ。それを戦果と呼ぶには弱すぎると思わない?」
「じゃあ奪われたままの方が良かったか?」
噛み付くような反論は忍耐強く流されやすいライナーの物でも、ましてや臆病で寡黙なベルトルトの物でもなかった。
戦利品として持ち帰られるはずの、ユミルの物だった。
自分の立場を理解していないかのような発言に、こちら2人の肝が冷えるような思いだ。
「それでいいなら私としても大変ありがたいんだがな。返さなくていいならこのまま見逃してくれよ、私はまだ死にたくないんだ」
「……あのさ、君自分の置かれてる状況わかってる?」
「わかってるに決まってんだろ、ジョークも大概にしろよおっさん。何も無いよかマシだろって話だし、そもそもお前のもっと後ろにいる奴らがまだ十歳やそこらのガキを前線に放り込んで本当に遂行できると思ってたのかよ、私でも無理だってわかんのに」
二人は唖然としてユミルとジークの間で高速で投げ合いされる会話のキャッチボールを見守っていた。
あのジーク。戦士長にここまでめちゃくちゃな屁理屈で食ってかかる人間は初めてだった。
「私がお前らの戦士に食われてやることに今更反論する気はねぇ、だが私の命がなんの結果もなく消えることにも納得いかないんだ。なんとしてでも戦果ってことにしてくれよ、死んでいく私の人生に意味をくれって!」
ユミルの激しい語調に、ジークは深いため息をついた。
「つまりは丸投げってことじゃないか」
