第5章 認識
翔くんが以前のふたりの話を聞きたいと言う。
俺から話せる話なんてないよ…
君に何を話せばいいんだ。
嘘の作り話が出来るほど俺は賢くないし、すぐにバレるだろう…
かと言って、事実を伝えるなんてもってのほかだ。
全て俺が悪い…その事実だけを翔くんに伝えたら、翔くんがあれやこれやと聞いてきた。
頭のいい翔くんだから、色々と考えてしまうんだろう。
気持ちを落ち着かせてあげたくて、背中を軽く叩いてあげると翔くんはおとなしくなった。
が、今度は頭痛を訴える。
なんで俺は翔くんを苦しめる事しか出来ないんだろう…
少しでも楽にしてあげたくて、翔くんを抱えあげソファーに運んだ。
体を横にさせて、痛みを取り除いてあげたくて、頭を撫でてあげると今度は涙を流す。
流れ出す涙は、拭いても拭いても止まることがない…
どうすれば君を苦しみから解放してあげられるんだろう…
そう考えてた俺の頬に、翔くんの手が触れた。
温かい手…翔くんの瞳に悲しみの光が宿る。
泣いてるのは俺のせいだと言う…
苦しいのも俺のせい…なのに悪い感情ではないなんて…
俺にはどういう事なのか、理解できずにいた。
そして、君は言ったんだ…
『もう、何も聞かないから』って…自分と俺の為に、何も思い出さないからって…
そう言って、君の手が俺の頬から離れていった。
あの時は、俺から離した俺の頬に触れる君の手…
今日は君の意思で、君の手が離れていったんだ。
君は、俺との過去よりも、ニノとの未来を選んでくれたんだよね?