第3章 欠落
翔くんの中の俺の記憶が消えた?
呆然としていた俺を心配そうに見る翔くん。
「え、と、大野さん?ごめんね…俺、なんで忘れちゃったのか分からなくて…」
こんな時でさえ俺の心配をする翔くん。
間違いなく原因は俺にあるんだ…それなのに…
「翔くん、俺の事は気にしなくて大丈夫だから…今は自分の事だけ考えて?」
「うん、ありがとう…あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、俺、大野さんの事『大野さん』って呼んでた?」
「え?」
「あ~、翔ちゃんちょっと前まで『智くん』って呼んでたよねぇ」
「智くん?」
「そうそう、イントネーションもそう。
翔ちゃん独特なんだよね」
「記憶がなくなっても、そういうのって変わらないんだなぁ」
相葉ちゃんと松潤が感心しているなか、翔くんはブツブツと呟くと顔を上げ
「じゃあ、智くんって呼んでいい?
なんか『大野さん』より、しっくり来るんだけど…」
「いいよね?大ちゃん?俺、翔ちゃんの『智くん』呼び好きなんだけど」
「そうだね。本人がしっくり来るなら、その方がいいんじゃない?
思い出す切っ掛けになるかも知れないし」
俺が返事するよりも、相葉ちゃんと松潤にそう言われ、断りづらくなってしまった。
翔くんにとってはどちらがいいんだろう…
このまま俺の事を忘れたままの方が翔くんの為なんじゃないかな…
返事をせずにいると翔くんが俺の顔を覗き込む。
「駄目かな?」
不安そうな顔で俺を見る翔くん…そんな顔しないでよ。
「ううん、いいよ…翔くんの好きなように呼んで?」
「ありがと」
以前の様に綺麗に微笑む翔くんを見て、やはりこのまま思い出さない方が翔くんの為なんじゃないかと思った。