第12章 恋敵
風呂を済ませリビングに戻ると、カズナリを膝に乗せ微笑みながら撫でている翔。
撫でられてるカズナリも気持ち良さそうで、シッポをパタパタと振っている。
犬を愛でてる翔、可愛いよ?
可愛いんだけどさ、その場所って俺の場所じゃねぇの?
「翔」
「あ、おかえり…なにか飲む?」
「ん、自分で適当に飲むからいい。
翔も風呂入ってきちゃえば?」
「うん、そうする」
翔は膝からカズナリを下ろし立ち上がった。
「くぅ~ん…」
「カズ、ごめんね?」
寂しそうに翔を見上げて鳴くカズナリを抱き上げた。
「カズナリは俺がみてるから大丈夫だよ」
「うん。お願いね、智くん」
「おう…」
翔が部屋から出ていった瞬間、俺の腕の中で唸り出すカズナリ。
わかってたよ、お前が俺のこと嫌いだってことは。
ニノが『犬相手にヤキモチ妬くな』なんて言ってたけどな、最初に俺に敵意を示したのはコイツなんだからな!
初めてカズナリとふたりきりになった日。暇だった俺はカズナリと遊ぼうとした。
なのにコイツはことごとく俺を相手にしなかった。
翔がやってるようにボールを投げてやっても無視して寝転んでるし、撫でてやろうと手を伸ばしたらすっと立ち上がり、翔がいつも座る場所に移動し昼寝を始めやがった。
コイツっ!中身までニノかよ!
唸ってるカズナリを床に置き、キッチンからミネラルウォーターを取ってくると、ソファに座わり喉を潤した。
「はぁ~」
そんな俺のすぐ横に来て寝そべるカズナリ。
別に俺の近くに居たいわけじゃない…そこは翔の定位置だから。
翔の匂いがするからコイツはここに居たいだけ。
その証拠に俺が手を伸ばすと、顔を上げ俺の事を睨みやがった。
「あのな?お前が翔の事を好きなのは構わねぇけど、アイツは俺のなのっ!
お前になんて渡さねぇからな!」
俺はカズナリを睨み返し、相手が犬であることなどお構いなしにそう宣言した。
「…さとしくん…」
振り返ると、顔を真っ赤に染めた翔が立っていた。