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【ONE PIECE】 さよなら世界

第8章 それは、不死鳥 (1)


 反射的に勢いよく返事をして振り返れば、眠たげなマルコだった。あぁ怖いな。瞬時に身構えると「ほら」と言ってなにかを投げてよこした。
 それは黒革の長財布で重みがある。
「手ぶらじゃ遊べねぇだろい」
 完全に経済の概念ごと失念していた。そうだ。いくらこの世界が私にとってファンタジーの物語のなかのように思えても、ここでは現実が動いていて、お金も労働もあるのだ。そんな根本的なことにも気付けなかった自分が恥ずかしい。船ではお金を出す場面はなかったし、テンポラ島での買い物は当たり前のようにマルコたちが支払ってくれていた。
「で、でも……」
 正真正銘一文無しのくせに島のカフェでモーニングとはしゃいでいた自分を殴りたい。どうしよう。正直この財布は助かる。けれども返せるあてなんてない……。マルコは私の困惑もお見通しかのように腕を組んで静かに立っている。
「オヤジの金だ。礼ならオヤジに言えよい」
「やったー。モーニングはのおごりね!」
 サーシャがはしゃぐ。マルコは鼻で笑った。
「このあいだのカードで大勝ちしてた奴がよく言う」
 サーシャは怯まない。眉をハの字、上目遣いにして大げさに声を作る。
「あらあらマルコ隊長ったら、私たちがを独占するのがお気に召さないのね」
 サーシャは素の声に戻して私に耳打ちする。
「『明日は一緒に出かけましょう』って言っておいたら?」
「えっ……ム、ムリ」
 なんてたってマルコはテクニシャンなのだ。(ポポロ島にも女の一人や二人はいるでしょうよ)。サーシャたちはくすくす笑いながら船を降りていく。
 船長は甲板の特等席に座って大勢の隊員たちに囲まれ談笑していた。かき分けていくのは忍びない。お礼は今夜あらためてしよう。とりあえず黙礼しておく。
 マルコに夕方には戻る旨を伝えれば、あくびをしながら、
「よいよーい」
 なんだ、なんか、かわいいな。
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