第5章 当たり前
「 ………… 」
家康からもらったぬり薬を首元にぬる
( …誰に対して怯えていたか、誰に会うために死んだかは覚えてる。
でも…何をされたんだろう。何で怯えていたのかな…それに… )
鏡を見つめる
( あの時に映ったのは…喋ったのは…? どうして奪ったのかな、
ここで生きろって言っているの…?
もう、現代に帰るなって言うの…? 帰っても、幸せなんて待ってないんだろうけど、
でも、さっきの人たちは 捨てないで とか言ってた
あの人の言ってたことと、あの人たちの言う事が違うのは…? )
思い返す度に疑問が湧いてくる
( まだ数日しか経ってないけど、不思議に思うことはたくさんあった…。
声が聞こえて、頭痛がして、子供に対して違和感を持って。
ぜんぶ、鏡のあの人が…? 何の為に? )
「 …だめだ、頭痛くなる… 」
もう言う通りに寝よう
独香は畳のまま毛布を被って、目を閉じた
「 …お母さん 」
ペンダントを手に取り、握りしめる
どうしても涙が頬を伝う
( 泣いちゃ、だめだ )
[ ここに居たいって思えるかな ]
[ きっと思えますよ ]
「 …………もうっ、思い始めて… 」
不安や悲しみ、恐怖で埋め尽くされていた心は
誰かに連れ去られた
代わりに置かれたのは、暖かさと少しの記憶
( 少しだけ、縋っても良いかな…
ここで、頑張ってみても良いのかな…いつか思い出せるかな… )
考えるのを止めようとしても、どうしても考えてしまう
しかし、泣き疲れたのか自然と意識が遠のいていった
〔 恨んでやる 〕
その言葉だけが心残りのまま―