第20章 (日+黒日)敗者の道 (捏造戦国)
「…そう恐い顔をしないで頂けませんか。何もしませんから」
捕虜とは別の天幕に入れられた私は、隅っこの方で小さくなっていた。
ここはどうやら彼個人のものらしく、他に人はいない。
私は、苦笑しながら私に声を掛ける彼をどう捉えたらいいものかと、ぐるぐる考えていた。
今までの言動から考えて、無理矢理私を押し倒すような人には見えない。しかしそうすると、私をここに連れてきた意味がわからない。
「…………」
先程から返事をしない私を困ったように見つめた彼は、やがて自分の腕をくんくんと嗅いだ。
「血の匂いが…申し訳ありません、不快だったでしょう。すぐに洗って来ます」
そう言いながらいきなり鎧を脱ぎ着物をはだけ始めるものだから、私は仰天し慌てて視線を逸らした。
一瞬だけ目についた彼の身体は逞しく、顔に熱が上がる。あの美しい顔の下にあるのはさぞかし均整の取れたしなやかな肢体なのだろうと想像して、視線が動いた。
けれどぎゅっと目を閉じて耐える。
彼は人を殺した鬼なのだと言い聞かせる。
それにしても、私はなぜここに連れられて来たのだろう。
事実彼は私に何かしてくる様子も無ければ暴言を吐く事も無く、予想していたのとは違う展開に調子が狂う。
私はどうしたらいいのだろう。逃げた方がいいのだろうか。
考えているうちに、彼が汚れた衣服を替え、外の見張りに手渡して。
「あ、兄上…もういらしたのですか、いつもより大分早…」
「私がいつ来ようと構わんだろう。退きなさい」
入口で、似た声が二つ。