第20章 (日+黒日)敗者の道 (捏造戦国)
「村人は無闇に殺さないで下さい。女子供と男は別で運びます」
逃走しきれたのなんてほんの数人なのだろう。そう思う程たくさんの村人がどこからか捕まえられ、まとめられていた。
指揮を取っているのは、白馬に乗っていたあの美しい武将だ。僅かに浴びた返り血を丁寧に拭い、てきぱきと指示を飛ばす。
手首を縄で縛られ歩きながら、私は暢気にもその姿に魅入っていた。
まだ若く見えるのに、他の雑兵は皆彼を慕っているように見える。
私にはその気持ちがわかる気がした。武将であるというのに彼の存在は妙に気品があり、逞しく、安心感があった。
兵を労り薄く笑顔を見せる彼を、目に焼き付けるかのようにじっと見つめた。
あの人が味方だったら良かったのに。そう考えて、嘲笑が漏れる。私は一体何を考えているのだろう。
その後、彼は女子供が連れられる様をじっと見つめていた。まるで顔を確認しているようだ。
すすり泣く者、泣き喚く者、項垂れる者、武将の彼に見惚れる者、私の目の前の女達は様々な反応をしている。
私は。
品定めしているような視線が気にくわなくて、一瞬合った視線をつんと逸らした。
黒曜石のように黒い瞳が、脳裏に焼き付いた。
と思った途端。
「其処の貴女」
一瞬、誰に言っているのかわからなかった。
けれど私が彼から視線を外した途端の声だったから、私は恐る恐る視線を上げ。
ぶつかる。
「貴女、此方に来なさい」
兵士が、繋がれて動けない私を見かねて引き立てる。彼も数歩歩み寄って、私のすぐ近くまで来た。信じられなかった。
前後の人と繋がれていた腕の縄が切られ、手を引かれ。
美しい顔が目の前にあり私を見ている。なのに、彼から漂って来るのは戦いを終えたばかりの死臭にまみれた血の匂い。
私は嫌悪に顔を歪めて。
他の女の嫉妬と羨望と憐憫の視線を浴びて。
武将に捕らえられた女は夜の奉仕に使われるのだと思い出し、肌が粟立った。