第20章 (日+黒日)敗者の道 (捏造戦国)
戦があった。領地主同士の戦が。
彼らの決戦の地となった私の村。それまで見物を決め込んでこわやこわやと噂話をしていた村人たちは、塗り替えたように形相を変え逃げ惑い、阿鼻叫喚のありさま。
私たちの土地を治め支配している領地主勢はもちろん戦った。
武将を遣わせ、戦いに明け暮れる彼らは、毎日怪我をして私たちの村に帰ってきた。
やがて怪我をする兵が日増しに増え、怪我に怪我を重ねる兵が増え、命を失う者が増え。
武将達が相手の勢いに呑まれ劣勢に追い込まれていくのが、私たちの目にもわかるようになって。
彼を目にしたのは戦に似合わぬ良く晴れた日。私はついに兵の手当てを投げ出し、他の村人と逃げ出していた所だった。
すぐ側で断末魔の悲鳴。刃が空を掻き切る音。
吐き気を押さえ、麻痺した感情を殺して走る。ここでは何の感情も役に立たず、役に立つどころかただ足枷になるだけだった。
横目で見遣ると、敵方の兵数人が容赦も無く刃を奮っていた。
その中で、白馬に跨がり一際目立つ武将の姿。肌がまるで女子のように白い。顔立ちがわかる程近くに寄った彼を見て、更にその端正な顔立ちに目を見張る。
馬上で刀を振るう姿に見惚れていると、後ろから走ってきた味方の兵に肩をぶつけられた。
剣を捨て焦点の合わぬ目で何処かを目指し走り逃げる彼。
その背中に、数本の矢が突き刺さる。
私たちは既に見捨てられていた。
彼らは、味方だと思っていた武将や兵は、私達を守っていたのではなかった。土地を守っていただけだった。
情勢不利と見るや踵を返して土地を捨て、そこに住んでいた私たちの事など見向きもせずに去っていた。
当たり前の事だけれど。
私は無感動に倒れた兵から視線を外す。
ややあって敵陣から、総大将を討ち取ったとの知らせが聞こえた。
何処へ向かうともわからずただ逃げようと走っていた私は、石に蹴躓き転んで、そのまま起き上がる事ができなかった。
苦い死の匂いがした。