第3章 (日)日常衝動破壊予感(ストーカー)
彼女を初めて見た時、不思議と目が離せなかったのは、随分昔の話。
それから毎日彼女を想いました。毎日彼女を探しました。毎日彼女に会いたかった。
だから、会える時間を見つけたんです。それが朝のこの時間でした。
いきなり声をかけては失礼だろうと最初は会釈から。
遠くから近づく姿、一目でわかりました。そしてすれ違い様、にこりと頭を下げる。
ああ、その時の彼女の少し驚きがちな微笑みといったら!
なんて綺麗な表情なのでしょう。なんて綺麗な存在なのでしょう。
その時の私の胸の高鳴り、貴女にはわからないでしょうね。
丁寧に会釈を返してくださって、私は嬉しくて嬉しくて誰かに報告したくなりました。
ですが、これは誰にも内緒の事にしようと思い直したのです。話せば彼女の存在が知られてしまうから。
自分でも可笑しな話だと思いましたが、彼女の事は誰にも知られたくありませんでした。
それから名前を知り、挨拶を交わす仲になるまでどれほどの時間がかかった事か。
いいえ、いいえ。時間なんてどうでも良いのです。
どんなに長い時間がかかろうとも、少しずつ貴女と親しくなっていく日々は、毎日新しい嬉しさがある宝箱のようなものでしたから。
ですが、知っていますか?私が璃々さんの名前を尋ねる前に、とうに知っていた事を。
貴女が捨てたゴミから貴女宛の手紙を見つけて、それで知ったのです。
安心してください、手紙を送りつけた男は私があの後片付けておきましたから。
怖かったでしょうね、可哀想に。あんな恋文紛いの手紙を送りつけるなんて迷惑にも程があります。
貴女に何もなくて良かった。私の大切な貴女。誰にも渡しません。
「…さて」
今日は水曜日ですね。私は箒を片付けると、璃々の住むアパートに向かいます。毎週水曜日と木曜日の日課をしにゆくのです。
危ない事に彼女は一人暮らし。
私がしっかり守ってあげないといけませんね。特に女性は下着等盗まれたりもしてしまいますし。
大丈夫です、下着の数も服の数も全て把握しています。
盗まれたらすぐにわかりますよ。私が全て視ておきますから、璃々さんは何も心配しなくていいのです。