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【APH】本田菊夢 短~中編集

第19章 (黒日)鳥居の宵




翌日の晩。
私の足取りは遅い。意味もなく緊張している。
ただ私を見て微笑んだだけなのに、昨日の記憶は強く私の中に刻まれて、あの美しい笑みが頭から離れないのだ。

会うのが怖い。怖いけれど、あの微笑みを、すらりとした姿を、顔を、また見たかった。


神社の手前。まだ鳥居は見えない。
会いたいとか私を見て欲しいとか勝手に思っている気持ちをどうにかしたかった。彼にはもしかしたら想い人が、好きな人が、恋人がいるかもしれないのだ。

それを思って少し心が痛む。なんで、私今まで全然こんな事なかったのに。前は平気だったのに。
考えないようにしていた事実が浮かんだ。
あの笑顔に、もしかして私は。

「…………」

鳥居が見えて。
いた。
いつもの場所に、いつもの黒い服で。

いた事に何だか安心して緊張して、私は息をついた。
そしてふと気づく。彼の足元から少し離れた所に、白い布が落ちていた。

ハンカチのように見える。彼は気付いていないのか拾おうとしない。腕を組んで、いつものように鳥居にもたれかかったままだ。
というより、何だか目を閉じて寝ているようにも見えた。


私は躊躇った。彼のものなのだろうか。そうなら拾ってあげた方がいいだろう。
でも、違うのかもしれない。そうかもしれない。
だけど、もしも。
もしも違ったととしても。
声をかける口実くらいにはなる。

私の迷いは一瞬だった。

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