第18章 (黒日)餌付け (ドM向け)
「そんなにお腹が空いているのなら、今此の場で食べる事を許します。今日の貴女のご飯、私が買ってきて差し上げたのですよ。光栄に思いなさい」
そう言って、菊は机の引き出しを開け中を探った。
私には嫌な予感しかしなかった。
菊が道徳に則った正しい事をした事などないのだ。きっとまた酷い事をするに決まっている。今すぐ逃げたい。
そして菊が取り出し机に置いたものに、私は予感が的中した事を悟った。
冷や汗が滲む。
「美味しそうでしょう?」
犬の、餌だ。
小さな袋に入れられた、紛うことなき犬の餌。
菊はそれを楽しそうに開け、白紙の紙の上にざらざら落とす。
お皿にさえ、入れない。
「貴女、そこにしゃがみなさい」
「…………」
嫌だ。
「早く」
嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。
確かに犬の餌は食べられない事はない、死ぬ事もないだろうが、第一人間の食べ物ではないのだ。
菊はそれがわかっているのだろうか。いや、分かってやっているに決まっている。
分かってやっていて、嫌悪と屈辱に染まる私を見て楽しんで、笑う、菊はそういう人なのだ。
拒みたい。全力で拒絶して部屋から逃げ出してやりたい、が、過去の記憶が私を絡めとる。
動けない。
震えながら、私は床に膝をついた。菊を見下ろしていた視線は今や菊を見上げている。
冗談だと笑ってくれるのを期待したが、そんな事叶うわけがない。
菊はにっこり笑った。
「手が不自由でしょう。私が食べさせてあげましょうね」
そう言って、紙の上に出した餌を一握り掴む。
掴み損ねてぼろぼろと溢れる餌。私を見下す菊の顔。
笑顔。
「口を開けなさい」
いやだいやだいやだいやだ!
今度こそ私の目からは涙がこぼれた。
何故こんな事をするのかわからない、拒みたいのに拒めない、がんじがらめのまま私の気持ちは踏みにじられていく。
「開けろと言うのが聞こえませんか」
「や…やめて……」
「何を泣くのです。そんなに嬉しいのですか?」
「やめ、っぐ」
「ほら」