第18章 (黒日)餌付け (ドM向け)
つまらなさそうに息をついて湯飲みに口を付けた菊は、一口飲んで眉をしかめた。
そして唇を離したかと思うと。
「ぬるい」
ばしゃ、とお茶が私の顔から胸にかけられる。私は反射的に目をつぶった。
かけられたお茶は暖かい。暖かいという事は飲むと確かにぬるいはず。
けれど菊は、確かぬるいお茶が好きだったはずでは。
戸惑っていると。
「こんなにぬるいお茶を私に飲めと言うのですか。今日は熱いお茶が飲みたいのです、下僕ならそのくらい察しなさい」
「…申し訳ありま…」
「貴女の謝罪など聴き飽きました。いい加減私に誉められる事をしたらどうなんですか」
「………」
私は答えない。答えれば、反抗するのかと叩かれるから。
ぽたぽたと顔から滴るお茶はもう冷えて冷たかった。それを拭こうとしない私を満足に思ってか、菊は笑う。
「まあ、いいです。私は寛大ですから許して差し上げます。…あぁそうだ。貴女もそろそろ食事にしたら如何ですか?」
ああ、離れられる。私は安堵して浅く息をつく。
しかし「ありがとうございます」と言って下がろうとすると、途端にぐいと手錠の鎖を引っ張られ、ぱあんと乾いた音がして頬を叩かれた。
「私が下がれと言うまで下がるな」
「す、み…ませ…」
「全く、礼儀も弁えず…。本当に物覚えの悪い方ですね」
頬がじんとして痛い。多少力は抜いて叩いたようだが、それでも痛いものは痛いのだ。私は涙が滲みそうになるのを堪える。