第17章 (日)夏幻
「失礼致します」
声がして、菊さんが盆を持って戻ってきた。ガラスのコップに冷茶が淹れられていて、冷たくて美味しそうだ。
「おや、ぽちくんたらまた…」
「大丈夫ですよ。…可愛いですね、ぽちくん」
「そうでしょう。私のアイドルなんですよ」
笑いながら、お茶を置く菊さん。
動作ひとつひとつが綺麗で、思わず私は自分も姿勢を正してしまう。
ああ、着物、綺麗。
「ご迷惑でなければ、私もご一緒させてください」
「あ、どうぞ!」
「ありがとうございます。…何か甘味が食べたければお作りしますが…何か召し上がりますか?」
「そうですね…メニューとかないんですか?」
「メニューは置いていません。大体のものならばお作り出来ますので、私がお客様の好みを聞いて、お作りするようにしているんですよ」
面倒かもしれませんが、と菊さんは笑う。私は首を振った。
「何だかお店より気楽で面白いです。知り合いの家にお邪魔したみたい」
「ふふ、そう感じて頂きたくてやっているんです。今日は暑いですからね…アイスは絶対でしょうね」
「勿論です!アイスと、あとは…」
「あ…桃はお好きですか?桃のシロップがありますので、バニラアイスにかけて、白玉を…」
「わー美味しそう!」
ぱっと顔が輝いた私に菊さんは笑った。
「では、それに致しましょうか。食べられないものなどはあります?」
「特には無いです」
「かしこまりました。おまけで少し飾り付けてお持ちしますね。5分もあればお持ちできますから」
「ありがとうございます!楽しみ…」
顔を輝かせる私を菊さんは微笑ましそうに見て、また部屋を出て行った。