第17章 (日)夏幻
そう言われて、私は少し感慨深い気持ちで庭を見つめる。
そうだ、今の時世、縁側のある家なんてどのくらい減ってしまっただろう。
引き戸は防犯性が薄いと言われ、瓦屋根は重いから地震の時に家が崩れやすいと言われ、木造は燃え易いと言われ。
自分の身を守るあまり、かつての造りは見なくなってしまった。
自分の身を守らなくてはならない世になってしまった。
黙ってしまった私を見て、菊さんは苦笑した。ずっと腕に抱えていたぽちくんを床に下ろすと、ぽちくんは真っ先に私に寄ってきて、足元にまとわりつく。
「すみません、変な話をしてしまいましたね」
「いえ、そんな事は…」
「どうぞ、そちらにお座りください。今お茶をお持ちします。ぽちくん、おもてなしお願いしますね」
ぽちくんの頭をひと撫ですると、菊さんは部屋を出ていった。
誰もいない静寂が辺りに広がる。さわさわとした木の葉の音に、私は再び庭に目を向けた。
なんだか、別の世界に来たみたいだ。ここからは建物の外の道路や家が見えなくて、裏道だからか車も通らず、この気温では人も歩いていない。
りぃん、と鳴る風鈴の音に私は目を細めて。
ふと横に置いた手にふわふわした感触を感じ、私は笑って振り向いた。
「ぽちくん」
名を呼べばキュンと鳴く小さな身体。
私は両手でそっと包んで持ち上げ、正座している膝に乗せた。
「幸せだね、こんな家で菊さんみたいな人に飼われて」
話し掛けながら、ゆっくりと身体を撫でる。つぶらな瞳が私を見上げて、すぐに眠たそうに細められた。
可愛い。ぽちくん可愛すぎる。
そういえば、菊さんはこんなに大きな家に一人で住んでいるのだろうか。いや、正確には一人と一匹か。
部屋を見渡すと、綺麗に整えてあるものの所々に生活感が見られて、それに何だか親近感がわく。
いいなぁ、こんな家に住めるなんて。