第17章 (日)夏幻
いいお店見つけたし寄り道して正解だった、と微笑んでいると。
「キャン」
「んわっ」
足元に何かもふもふしたものが当たった。
ふ、ふかふかする!
目線を下げて見れば、麦色をした小さな犬が私を見上げていて。
ころころとした丸い身体に私は一気に癒された。
「おお…わんこ…!」
驚かさないようゆっくりしゃがむと、犬は小さな尻尾を振った。
なにこの子可愛い…!
咬まないよね、と思いながら、手を伸ばしてひと撫で。大人しい。ていうか毛の手触り良すぎ、ふわっふわ…!
きっと飼い主が丁寧に世話してるんだろうなぁと思いながら、ゆっくり撫でてやる。
子犬は気持ち良さそうに目を細めた。
どんな人なんだろう、この家の人。
女の人かな。男の人かな?
でも綺麗好きみたいだし、女の人かも。きっと日本美人を代表するような綺麗な人で、お菓子とか作るの上手くて、礼儀正しくて着物着て過ごしたりするのが似合って、
「ぽちくん?何処に……おや」
妄想を膨らませていると、不意に低く心地良い男の人の声が聞こえた。
え、と思って顔を上げると、そこには藍色の着物を着た端正な顔立ちの男の人。
私は思わず魅入る。だって、こんなに綺麗な顔をした人は見た事がない。
さらさらの黒髪は頬の横で切り揃えられ、睫毛は長く、まるで違和感もなく着物を着て。
瞳の色が暖かい。都会人のどこか冷めた瞳ばかり見てきた私は、何故だか泣きそうになった。
「あ、の…」
「すみません、ぽちくんがお世話になったようで。いらっしゃい、ぽちくん」
声に、犬が私から離れていく。
男の人の足元にたどり着くと、白い腕が伸びて犬を持ち上げ胸に抱えた。
「いけませんよ、人様に迷惑をかけては」と、細長い手で撫でながら優しく諭す姿。
着物と黒髪の美しさ。色気。
背景の日本家屋と相まって、まるで絵のようで。