第9章 (闇日)罪と罰 (僅かに傷、血表現)
力任せに押されてがつ、と肩の骨が壁に当たり、私は痛みに顔を歪めた。
「っつ…」
「自業自得です」
じんとする肩を押さえようにも、がっちりと捕らえられている私の手。
私を突飛ばした張本人の菊が目の前で冷たく言い放って、目を細めた。
私は今菊の手によって壁に押し付けられているのだ。
なぜ、なんて聞いてはいけない。
私が聞きたい。
背中を冷や汗が伝うのがわかる。菊と目を合わせてはすぐに逸らした。
殺されそうなくらいに強い憎しみが籠った闇。
その憎しみの相手が私なのか違うのかは置いといて、とりあえずやばい、かなり怒ってる。
「ねぇ、璃々さん。私を見てください」
「…痛い、離して」
眼前にはきちんと着られた軍服の胸元。漆黒の生地に金色の釦。
今の菊の顔なんか怖くて見れるわけがなかった。
見たらきっと、私は負けてしまう。何も言い返せなくなってしまう。
「私を見なさい。貴女、自分が何をしたかわかってるんですか」
「痛いってば、そう言うならまず離してよ。何で怒ってるの、菊、わたし…」
「何故、ですって?」
「…だって、こんな突然引っ張って来られたって」
「自覚が無いと?」
「だから何のよ。私にはこんな事される覚えなんて無、」
「ほう…それはそれは」
遮る低い声が、一段と低くなった。私はびくりと動きを止める。
信じられないくらいに冷たい声だ。
こんな声は滅多に聞かない。
私は何も怒られるような事などしていないはず、ならば罪悪感を感じる必要も無いし謝る必要などもっと無い。
だけど菊の声は私を容赦無く刺し、今すぐにでも謝罪の言葉が口を突いて出そう。