第9章 (闇日)罪と罰 (僅かに傷、血表現)
は、と息をついた次の瞬間、突然菊に顎を掴まれ、無理矢理上を向かされて視線が合わさった。
「口で理由を言わねばわからぬか。貴女はそれほど理解の足りない人ではないはずだが」
重なった視線。容赦の無い口調。噴き上がる怒りが見て取れる。
私の手が震えた。
怖い。
「…って、わたしずっと、…アーサーと話して、た、だけだもん…」
「話してただけ?話してただけだと?ならば問う。あれほど彼奴には近づくなと申した筈、距離を置いて接するようにと申した筈、何故二人で部屋にいた。何故話していた。何故彼奴からの抱擁を受けた。何故笑顔を見せた。何故約束をした」
「そんなの私の勝手でしょ、アーサーは私の、ともだち…っは、」
顎を掴む手が首にずれ、力がぐっと込められ私はむせた。
菊の目が。
菊の瞳孔が開く。
「…彼奴の舌舐めずる顔が目に浮かぶようだ」
あ、キレた、と思ったら、足の間に菊の足が割り入れられた。壁を支えに膝が上がって、その上に乗る形になった私の身体は抵抗の間もなく持ち上げられる。
痛い。羞恥よりも恐怖と痛みが勝り、私は顔を歪めた。
足が地面から僅かに離れる。
離れようともがく私。菊の唇が耳を掠め。首を絞める手に尚更力がこもって。
身体で身体を押し付けられて、息苦しさと緊張に目の前が暗くなった。
「有罪」
「い、痛い菊、…けほ、離し…っ」
「貴女は罰として何をして欲しいのです。目隠しか、拘束か、鞭打ちか、それとも踏まれたいのですか?」
「どれも嫌だ」
「我が儘を言うな。おまえは私との約束を守らなかった。なのに彼奴と約束をした。この私との約束を違え愚弄した罪、償ってもまだ足りぬ」
要するに嫉妬でしょう、と思ったが、言えるはずがない。
息苦しさと股の痛みに涙が浮かぶ。膝頭で抉るように持ち上げられている私は、端から見たらさぞ滑稽なんだろう。
もう謝ってしまおうか、だけどそれにしたってここまでされるなんて酷くはないか、と考えていると、いつの間にか菊は私の首元に顔を埋めていて。