第8章 (黒日)黒刀 (パラレル)
剣を受け取ろうとしない私に、菊はまたため息をついた。
「私はまた難儀な主人に当たってしまったものだ」
「ごめんなさいねっ役立たずで!」
「しかし、言い争っている暇は無い。あれを放っておけば厄介になります。私はこの刀と主人以外に触れられないのだから、貴女がやるしかないのですよ」
「わかってるけ…うわっ」
突然菊に突き飛ばされ、私は尻餅をついた。
何するの、と言おうとした瞬間、目の前を闇が突き抜けていく。
「霊に触れれば生気を吸われます。気を付けて下さい」
どうやら助けてくれたらしい。剣は使えないし鈍いし、私相当役立たずだ。
苛つくのが勿体無いくらいの役立たずだ。
壁をすり抜け漂う霊を見ながら、確かに今言い争っている暇は無い、と思う。
どうにかしないといけない。私が。
でも、剣を使えないんじゃどうしようもない。
「仕方ありませんね…」
不意に、霊を見つめ目を細めた菊が呟いた。
「貴女の身体、少々お借りしますよ」
「え…なっなに?」
「今回は特別です。私が貴女に憑いて、斬らせて差し上げます」
言いながら、菊は慣れた様子で刀を鞘から抜く。
「貴女も私も疲れるのであまりやりたくないのですが。拒否は認めませんよ」
どうやら最終手段らしい、と私は思った。
今まで散々役立たずを晒してきたのだ、何かしないといけないと思い、私は抜かれた黒い刀身を見る。
「どうしたらいいの?」
「貴女はただ何も考えずにいてくださればよろしい。私が貴女の手足を動かします。ただ、余計な事を考えると上手くいかず動きが鈍くなりますので、くれぐれも、普段通り頭の中身は空にするように」
「頭が空ってそれ私馬鹿みたいじゃない」
「その通りでしょう」
言いながら菊は私の手に触れる。
ひんやりと冷たい。ああ彼は生きていないんだな、と、わかっているのに改めて実感する。
こんなに圧倒的な存在なのに。
生きていない。
菊は私の手に刀の柄を握らせた。
重たい。刀とはこれほど重たいものなのか。
ずしりとした重さに私は息を詰めた。