第8章 (黒日)黒刀 (パラレル)
私は昔から霊的体験をする事がしばしばあった。
ラップ音、ポルターガイスト、足音、ノック、話し声。
特に自分に危害があるわけではないので、「あーあ」と思って、若干怖がりつつも暮らしてきてはいた。
親から独立、独り立ち。
その刀を見つけたのは押し入れ掃除の時。
しばらく片付けてないし片付けようと思って、押し入れのもの全部出して片付けていたら、一際奥に一振りの刀。
「こんなのあったっけ」
少なくとも私には覚えがない。見た事も無いと思う。
引っ張り出してみると流さは1メートル程。大刀というやつだろうか。
柄も鞘も鍔も真っ黒で、金具は金色をしていた。
汚れは無い。金具が錆びている様子も無い。日本刀なんて初めて見るよと思いながら柄を握り締めて鞘を押さえ、刀身を見ようと力を込めてみる。
が。
「…あれ」
やたら硬かった。
おかしい、錆はないはずだし綺麗なのに。ゴミとか挟まってんのかな。
首を傾げ、もう一度試してみた。
さっきよりも力を込めて。
抜けろ、と。
「っ!」
ず、と鞘が動いた。その途端私の背中を悪寒が走った。
思わず手を止める。何、今の。まるで冷たい水を突然背中にかけられたような、一瞬で身体が冷える悪寒。
どくんと心臓が殊更大きく跳ねる。
少しだけ見える刀身から目が話せない。黒い。闇のように真っ黒だ。何だか、怖い。
それでも興味と使命感がせめぎ合って身の内をのたくり、震えながら刀を鞘から引き出して。
「…………」
現れた刀身の美しさに思わずため息をついた。
洗練されている。
柄も鍔も鞘も真っ黒だったけど、刀身まで真っ黒だった。まるでそこだけ闇に融かされたようで。
震えも恐怖も悪寒も忘れて見惚れていると不意に、す、と目の前に黒い足。
「そんなに見惚れるものでもないと思いますが」
不思議に思うよりも前に頭上から男の人の声。
顔を上げれば真っ黒の軍服に身を包んだ黒髪の男の人が、無表情に私を見下ろしていて。
その顔立ちは世の者とは思えないほどに美しく、同時に艶かしく、同時に鋭く。
魂を捕られる、と思った。
2014/
(刀の霊的な黒菊様。書きたいところだけ書いた次ページに続きます)