第1章 (日)温かい、ゆるやかな
いつの間にか抱き締めそうになっていた気持ちを押し込めるように、自分の胸に手を当てる。
恥ずかしくなって目を合わせられなかった。お言葉に甘えて居間で休んでますね、と平静を装った声を出して立ち去ろうとすると、くんと袖を引かれる。
少し目線の低い彼女は何だか必死な顔をしていた。驚いた私を見て、さっと手を引く。
「えっと……な、何でもない」
急に泳ぐ視線。握り締めた手。
ああ、何だか貴女の気持ちが手に取るようにわかりますよ。
私は苦笑して、彼女の手を再び取った。
「あ……え」
言葉は最後まで聞かなかった。小さな手を少し力を込めて引くと呆気なくこちらに倒れ混んできて、私はそれを受け入れるように手を広げ、彼女の背に回す。
抱き締めてみると温かさがじんわりと伝わってきて、腕の中の彼女があまりにも柔らかくて。
「菊さ…」
慌てたような声。
嫌がっていませんよね?私の袖を引いた時、貴女も私と同じ気持ちだったと自惚れていいんですよね?
嫌なら遠慮なく突き飛ばしてください。そうしたら私は二度とこんな真似はしないと誓いますから。
だけどもし、そうでないなら。
「……菊さん、あったかいです」
「璃々の方が温かいです」
私は今きっと、とても締まりのない顔をしているんでしょうね。
2010/0117