第1章 (日)温かい、ゆるやかな
「璃々」
「なに?」
声を掛けるとすぐに返ってくる声。ややあって、こちらを向く顔。私を捉える瞳。
少し微笑んだ口元。
「鍋、ふいてますよ」
「うわ!」
すぐさま立ち上がり彼女は台所へ飛び込んだ。
弾みでテーブルから本が落ちて、私はそれを拾ってやると、彼女の後を追って台所に入る。
「やはりお手伝いした方がいいと思うのですが…」
「いいんだってば!今日は菊さんを休ませる日だって私が決めたの。大丈夫だから」
私の表情がよほど不安そうに見えたのか、彼女はめいっぱい力を込めて大丈夫だと連呼した。
そう言われる方がよほど不安になると気付いてますか?
だけど必死にこちらを気遣っているのは言葉の端々から伝わって、自然と口元が緩む。
ありがとうございますと、無意識に口にしていた。
「ですが、本当に気をつけてくださいね。貴女に怪我でもされたら爺は卒倒してしまいますよ」
そう言うと、彼女は一瞬だけきょとんとして、わかりましたと神妙な声で答えて頷いた。
しかしその顔はまるで照れたように笑んでいて、思わず「本当にわかって