第6章 (日)亡想 (ネクロフィリア的狂愛)
青白い顔、以前は利発そうな光に満ちていた瞳は、もう開く事はない。
立ち上がって私を抱き締める事も、その可愛らしい声を聴く事もない。手も、その細い指一本すら、動く事はないのです。
あの日から璃々さんの時間は止まってしまった。
「…璃々さん、」
ですが、何故なのでしょう、寂しくはありません。
物足りない、残念だと感じる事はあれど、テレビで見る誰かのように泣いて喚いて取り乱す事もない。
むしろ、そちらの方が理解できませんでした。
国ですから仕方ないのかもしれませんね。私の体の中では日々民が生まれ、亡くなってゆきます。その繰り返し。そして璃々さんもその中に紛れて逝った、それだけの事。
しかし璃々はここに居る。魂は私の周りでいつまでも親しげに戯れている。永遠に私のものになったのです。素敵な事じゃないですか。
それに、逝ってしまった璃々さんは未だこんなにも美しくて。神秘的で、猟奇的で、狂気的で、そんな普段とは違う姿を見られたんですから、むしろ喜ぶべき事。冷たい手を持ち上げて、指先に口付ける。
私の目に映る貴女はいつでも美しく魅力的であったけれど、死すらも美しい。
きっと肉が落ちて髑髏になったとしても美しいのでしょう。
見てみたい気もしますが、自然になるには時間がかかりますし、人為的には貴女が可哀想です。
この身体に傷はつけたくない。痛い思いもさせたくない。
真っ白な肌に絹の髪、私がさした紅、とても綺麗。
私は身体を持ち上げて彼女の横に手をつき、上から見つめて。
頬に手を滑らせ、睫毛をかすめ、唇に触れ、ゆっくりと顔を近付けて。
以前未だ命が在った時、寝顔があまりにも可愛くて口付けたら、起きてしまって怒られた事がありますね。
そんな事を思い出し笑顔を浮かべながら、冷たい唇に私の唇を重ねました。
待っていてくださいね。
私もすぐそちらに逝きますから。
2014/