第5章 (香)初めまして(学ヘタ)
「…というわけで今日からこのクラスに転入する璃々さんだ。まだ学校の事わからないから、色々教えてやってくれ」
「宜しくお願いします」
緊張する。この何十人もの視線を一気に受ける感じ。
目線をどこにやったらいいのかわからなくて視線を泳がせていると、ふと視界の隅で何かが目に止まった。
何気なくそちらに目をやって、驚く。
「あ……」
今朝のイケメンくん…じゃない、香君が私をじっと見ていた。目が合って、少しだけ頭を下げられる。
教卓の隣に立っている私はそれに頭を下げて返すわけにもいかなくて、かわりに少し微笑んでみた。
緊張が一気に楽になっていく。
少しでも知っている人がいるというそれだけで、張り詰めていた呼吸と気持ちが驚くほど軽くなっていた。
「じゃあ君の席は…学級委員の近くでいいな。あそこだ」
「あっはい!」
まずい全然話聞いてなかった。慌てて先生が指を指した先を見る。
ん、窓際。香君と離れてるなぁ…。
「それとトーリス」
「はい」
先生の声に、私の隣の席の男の子が立ち上がった。
あの人が委員長だろうか。
「放課後でいいから校舎を軽く案内してやってくれないか」
「わかりました」
そのやり取りを背中に聞きながら席に移動する。
鞄を机に置くと、委員長(トーリス、君?)がにっこり笑った。
あ、優しそう。
「僕、委員長のトーリスです。よろしくね」
「あ、こちらこそ…よろしく」
突然の転校生なんだ、第一印象が大事だと思いながら笑顔で対応する。
椅子に座ってからまたちらりと香君を見てみた。
窓際の前の席に座っている背中を少し眺めて、鞄を横にかけ、筆箱を出す。
うん、彼からお友達にしていこう。
友人作りが不安だったのだが、少しだけうまくいきそうな気がした。
2014/