第5章 (香)初めまして(学ヘタ)
校舎内をきょろきょろしながら、目の前のイケメンくんから離れないように歩いていく。
なんとなくイケメンくんの歩調が見かけによらずゆっくりな気がした。
もしかして私の歩調に合わせてくれているのだろうか。
「…ここっす」
しばらくしてイケメンくんが立ち止まった。見上げれば、確かに「職員室」の文字。
なんとか無事につけた、とほっと息をつく。
「ありがとう。助かりました」
見知らぬ不審者だった私を案内してくれるなんて親切な人だ。
少し頭を下げながら言うと、イケメンくんはぷいっとそっぽを向いてしまった。
「別に。…じゃあもう俺、行きます。あとはティーチャーに聞けば何とかなると思うし」
「うん。…あ、イケメンくん、名前は?」
「(イケメンくん?)…香」
「香君、ね。私璃々っていいます。今度会ったらお礼させてください」
そう言うと香君は少し驚いたような顔をしていた。なんでだ。
そして何かいろいろと迷ったような無言の後に。
「…っす」
おお、もしかして照れているのだろうか。
何だか結構可愛い人だなあと思いながら踵を返した後ろ姿を見つめると、目の前の職員室のドアがガラリと開いた。
「あぁ、君が璃々さん?」
大人の男の人が私を見下ろす。先生だろうか。それにしては、若い。
そうです、と答えると、彼は人当たりの良さそうな顔で笑った。
「今迎えに行こうと思ってたんだけど…悪い、遅かったな。少し早いけど教室に向かおうか」
「はい」
どうやら私のクラスの担任らしい。これから宜しくお願いします、と私は頭を下げた。