第5章 (香)初めまして(学ヘタ)
晴れた綺麗な空が私の目に映った。それを背景に、もとはクリーム色をしていたであろう汚れた校舎がそびえ立つ。
まだ寒さが残る冷たい風が頬を撫では髪を弄んだ。その温度にひとつため息をついて、私は鞄を持ち直した。
全て捨ててきた。私は全て置いてきたんだ、かつてのあそこに。
この門のレールを越えれば、別の私が別の生活をしていく。
それが楽しみのようでいて。
だけど、過去は繰り返すと誰かが言って。
私はそれを心の中で蹴飛ばして、眉をしかめた。
「…何してんすか」
ふと声をかけられて、私ははっと振り返った。
時間が経ったせいだろうか。気づけば私の横をちらほらと生徒が通り過ぎて、時々不審そうに私を見ていた。
まあそりゃそうですよね。見知らぬ人がぼーっと突っ立って校舎眺めてりゃね。
声をかけてきたのは男の子だった。制服を着ている所を見るとここの生徒らしい。
何か随分と顔立ちがいい人だ。きっと勉強も運動も出来るんだろうなと想像がつく、そんな人。
「あ…えっと、ごめんなさい。何でもないです」
あぁ。
素直に職員室がわからないんですと言えばいいのに、すぐ強がる私の口調。うらめしい。
まあ、別の人に聞けばいいか。通り道だっただろうかと少し端の方に避けた。
その様子を目で追ったイケメンくんは少し首を傾げた。
「……もしかして、転校生みたいな?」
「なぜバレたっ」
「制服が綺麗だったから」
「綺麗好きかもしれないじゃないですか」
「や、綺麗好きなここの生徒だったらまずマップ持って校門の前にスタンディングしたりしないっしょ」
それもそうか。というか地図まで見られたか。
観察力のいい人だ。
「何か困ってるっすか?つかぶっちゃけ、職員室わからないとかベタな展開的な?」
「的な」
何やらとても無表情で口調がナンパな人だが、悪い人ではないのはわかる。私は素直に頷いた。
「…ついて来るといいっす。案内します」
「え、ほんとに?」
「マジで。早くしないと遅刻するっすよ」
歩き出していくイケメンくん。
背の高い後ろ姿を見つめた私は、ひとつ呼吸をすると、あっけなく門のレールを越えた。