第8章 ナナシの『伝説』
「くそっ!ミケの馬鹿ぁぁぁっ!!」
別に正式に『契約』をした訳でもないので、
無かった事にしても良いのだが、
ナナシの性格上一度言った事を反故にするなど許せない。
廊下で頭を抱えながら叫んでいると、
後ろから「あの・・・」と控えめな声が掛けられた。
振り返ると、そこにはエレンが佇んでいて、
ナナシは「どうしたのだろう?」と首を傾げる。
「さっきは、タメ口とか色々すみませんでした!」
バッと勢い良く頭を下げたエレンにビックリしながら、
ナナシは続いた言葉に耳を傾けた。
「ナナシが・・・いえ、ナナシさんがまさか教官をやってたなんて
思いも寄らなくて・・・。凄く若く見えるじゃないですか。
だから、俺てっきり同じ新兵だと思って・・・それで・・・
つい・・・」
「いや、全然気にしてないから、頭を上げてくれ。
それに誤解を解かなかった私も悪かったし・・・・」
直角に頭を下げるエレンに焦りながらそう言うと、
彼は漸く頭を上げナナシに尋ねた。
「あの・・・団長やリヴァイ兵長も指導していたって
本当ですか?」
「あー・・・まぁ、一応・・・・」
「お願いですっ!俺も鍛えて下さいっ!」
また勢い良く頭を下げたエレンにナナシは狼狽する。
―――断りにくい。
こんな純粋に頭を下げられては「嫌だ」とは言い辛く、
何と返そうか迷ってしまう。