第29章 エルドの想い
「ナナシさんは・・・団長の事、どう想っていますか?」
穏やかに・・・まるで弟か妹を見守るような目でそう問われた
ナナシは逡巡した後、「愛している」と直球で答える。
何となくエルドが求める答えが直球でなければいけないような
気がしたからだ。
「こんな目にあっても、そう言えるんですか?」
包帯を巻き終わった手を優しく包み込まれながら言われた
言葉には一瞬間が出来てしまったが、ナナシも随分と
心が決まってきていたので決意表明するように言葉を紡ぐ。
「正直、今回の事は後で復讐してやりたいと考えるくらいには
怒っているが、・・・それでも私はエルヴィンを嫌うことが
出来そうにない」
「そうですか・・・」
エルドはこの上なく満足そうに微笑むと
「やはり凄いですね」と言って、ナナシの手の甲にキスを落とした。
「あなたを尊敬します。俺もあなたのように彼女を一途に
想いたいです」
「私は・・・お主が思っているような人間ではないぞ?」
エルドから受けた尊敬の念は有り難いが、
自分はそんな人間ではないと告げると、彼はニッコリ笑って
それを否定する。