第29章 エルドの想い
「・・・こんな事をナナシさんに話すのもおかしいですが、
実は次の壁外調査が終わったら彼女にプロポーズしようと
指輪も用意しているんです。・・・受け取ってくれると
良いのですが・・・」
「何故、受け取ってくれないかもしれないと思うのだ?」
珍しく気弱になったエルドに不思議そうに首を傾げると、
彼は「調査兵だし薄給だし」と困ったように笑った。
「死ぬつもりはないんですがね・・・いつ死ぬかもわからない男と
結婚するより、彼女には他の男と結婚してもらった方が
良いのでは?と思うことが多々あります。・・・だから、
恐くてなかなかプロポーズの決心がつきませんでした」
「・・・だが、もう決心は固まったのだろう?」
エルドが迷いながらも決心している口振りだったので
そう問うと、彼は「えぇ」と穏やかな笑みを浮かべる。
「決心の切欠はナナシさんと団長でした」
「え?」
思わぬ発言に驚いていると、彼は過去に何度かやっていた
ナナシの恋愛相談や、ナナシが遠くへ行ってしまっていた時の
エルヴィンの姿を見て決心がついたのだと語った。
「あなたも団長も俺なんかが足元にも及ばない程一途で、
こういうのも良いなって思えたんです。例え短い間でも
一緒に思い出を作れたなら充分なのではないかと・・・」
そう言うとエルドはベッドに置かれている犬のぬいぐるみを
見つめて、目を細めた。