第20章 それぞれの愛
新兵の立体機動戦を観察し終えたナナシは、
一人自室でデータを纏めるべく書類と向き合っていたが、
気になるのはエルヴィンの事だった。
エルヴィンにあんな顔をさせるつもりは無かったのに、
自分はいつも彼を傷つけてしまっていると思う。
だが、自分には彼に自分の罪過について教えるという選択肢は
存在しなかった。
「あ~っ!クソッ!仕事に集中しろ!!」
苛立ちで頭を掻き毟っていると、コンコンと扉がノックされ
ナナバがやってきた。
「ナナシ、そろそろ夕飯の時間だよ」
「あぁ・・・もうそんな時間か」
外を見れば夕日が沈む所で、自分は随分周りが
見えていなかった事を自覚する。
「では食堂に・・・」
「あぁ、ナナシは食堂じゃなくてエルヴィンの執務室に行って。
食事はそこに運んでおくから」
「・・・え・・・」
腰を浮かしかけた状態でナナバを凝視すると、
彼女は「エルヴィンが『ナナシと二人で食事したい』って
言ってたから」と言って去って行った。
いきなり気不味い状況に追い込まれたナナシは頭を抱えて
憂悶したが、逃げられないこともわかっているので渋々
団長執務室へと向かったのだった。