The Anjel ー殺人鬼と悪魔に魅入られた人ー
第2章 The dawn ー始まりー
「…ねぇ、悠……。」
『何?レイチェル…。』
静寂に包まれていた薄暗いエレベーターの中で、唐突にレイチェルが静寂を打ち破り…私に話しかけてきた。
考えごとをしていた頭や意識を、レイチェルの言葉に集中させる。
「……さっきの、パソコンの質問のこと…。
気にならないの……?」
『…さっきの、質問……?』
訊ね返すと、レイチェルは小さくコクリと頷いてから、俯いてしまった。
彼女は俯いたまま私に答えた。
「…さっきの……。
なぜ、病院にいたのか…っていう質問……。」
『……。』
少し前の、レイチェルのパソコンとのやり取りを、思い返してみる…。
ー……人が死ぬところ、ーー人が、殺されるのを見たから。ー
ー……目の前で……ー
『……ああ。
人が殺されるのを見ちゃった……ってやつのことかな…?』
「……うん。」
『……あまり、思い出したくないでしょ?
私が答えちゃっても良いの……?』
「……っ!?」
私の言葉を聞いたレイチェルが、驚いたのか、弾かれるように顔を上げた。
私は、エレベーター内の壁に背中を預け、更に続ける。
『殺人見るのなんて、面白くも楽しくもない。
……当たり前だよね。人の命が消えちゃうんだから……。』
ふっと溜息を吐いて更に続ける。
その間も、レイチェルは黙って私をじっと見つめている……。
『……見てしまった人にも、遺されてしまった人達にも…。
その心に深い傷を残す……。
だから、殺人は大嫌いだよ……。
自殺も、誰かが目の前で死んでしまうのも…大嫌いだ…。』