第1章 傘
突然の土砂降りだった。
つめた。あ、何か降った。
空を見上げて、曇天を確認。雨?やばい傘持ってきてない。どこかに傘売ってないかな、もう少し先に店があったけど、ちょっと早歩きで歩こうか。
そんな事を考えている間に雨足は急速に変貌して、バケツを傾けたくらいには降ってきて。
「あー…勘弁してよ…」
荷物を前に抱える。携帯と本だけは死守しなければならない。
顔を水滴が伝うくすぐったさを感じながら、もう少し先にある店の赤い雨よけを目印に、足早に歩く。
あそこなら確か傘売ってた気がする。
「さむ…」
手が冷たい。雨で身体の熱を奪われたせいか、何だかすごく寒い。でも身体の芯は熱い、不思議な感じ。
ただでさえ風邪気味なのにな…これでひどくなるのは確実だ。熱出ないといいんだけどな、とぼんやり考えて歩いて、走って、雨よけはもう目の前。
「あれ」
だけど。
何か店おかしくないか。シャッター閉まってるんですけど。
灰色の金属が入口をびっちり閉めているのが目に入り、戸惑ったように歩調が崩れる。
ちょっと。ちょっと待って嘘でしょ、傘買うなって事?風邪こじらせろってか。絶対やなんですけどそんなの。
とりあえず雨よけの中に入りくまなく確認してみるものの、やっぱり店は閉まっている。どこからどう見ても閉まっている。私は諦めたように嘆息した。
通り雨なのを願って、少し雨宿りしよう。
家まではまだ距離があるし、少し疲れたし。適当に休んでいるうちに雨足が弱まることを願って、私はシャッターに体を預けた。