第4章 20~
「土方さーん…あり」
襖の影から沖田が現れた。乃芽を見て止まり、まだ幼さが残る瞳を見開いた。
「乃芽じゃねーか。来たら真っ先に俺んとこ来るって約束だろィ」
「そんな約束してませんけど」
「アンタもアンタでひどいでさァ乃芽独り占めしやがってコノヤロー死ね土方コノヤロー」
土方は至極面倒そうに眉根を寄せた。
「誰が独り占めしてんだよ。で、何だ総悟。何か用か」
「あぁそうだ。客が来てますぜ」
「近藤さんにか?お前留守だって知ってんだろ。待つか出直すかしてもらえ」
「それが近藤さんに会いにきたんじゃねーようで。乃芽を出せって言ってんでさァ」
「………私?」
乃芽はきょとんとした。
どういう事だろう。今日この真選組屯所にいるのは万事屋の3人と土方達しか知らないはずだ。
警戒よりも疑問が生まれる。
「名は」
「陽空なんとかって言ってましたぜ」
ガタン!!!
聞いた瞬間。
乃芽は思わず立ち上がっていた。
「ひ…そら…?陽空要!?」
机に足をぶつけたが痛みは感じない。
心臓が止まった気がした。
ぐらりと世界が揺れた気がして、一瞬色がなくなった気が。
二人のきょとんとした顔がぼやけていく。
どくんどくん。呼吸が浅くなる。
鼓動と共に思い出すのは、泣き顔と怒声と拒絶と。
鈍色をした五月雨だった。
2008/07/31