第2章 08~11
「あの」
「んー?」
「本当に、申し訳ありません」
先程とは打って変わっての雰囲気に、銀時は乃芽を振り返った。
「思えばちゃんと謝ってないなと思って…。屋根に穴開けちゃって迷惑かけて、申し訳ありませんでした」
深く頭を垂れる。礼と謝罪だけはきっちりしようと、昔から心に決めているのだ。
やらなければ、気が済まなかった。
銀時は乃芽の正面に立った。
顔を上げろと言うまで上げるつもりはない。そのままじっとしていると。
ぽん、と頭を撫でられてびくっとする。
「んなかってー事考えんなや」
わしゃわしゃわしゃ。
あの…髪の毛ぐしゃぐしゃになるんですけど。
「屋根に穴開いたのなんて初めてじゃねーし、宇宙船が突っ込んで来た時もあるしでっけーチョコ降って来た時もあるんだぜ。どうって事ねーよ。さっさと顔上げろ」
そう言うものの、銀時の手は未だに頭を撫でていて。
髪をわしゃわしゃ掻き乱していた手はいつの間にか優しく撫でるようになっていて。
わずかに視線を上げると、思っていたより優しい笑み。
しかしそれは一瞬で隠された。
「気が済まねーってんならそーさな…とりあえず敬語は邪魔くせーから止めろ」
「あ…」
「俺の事はこれから名前で銀さんと呼べ。もしくはお兄ちゃんか先生でもいい。ナース服着て仕事してくれりゃ…」
「ぎ ん さ ん」
にっこり笑って言葉を遮る。
ちょっといい所があると思ったらすぐこれだ。
全く、掴み所がない。しっかりしているのかちゃらんぽらんなのか、考えているのか考えていないのか。
唐突に名を呼ばれた事に銀時は瞬いていた。
それが余りにも子供っぽくて微笑む。
「行こう、銀さん」
改めて呼ぶと恥ずかしいものだ。乃芽はふいっと背を向けて先を歩いた。
残された銀時は。
「…ったく…ありえねーよ」
こっちまで恥ずかしくなってくるような。
2008/04/30