第2章 虎への紹介
信玄、幸村、佐助は、目の前にいる人間を見つめていた。
そいつはおそらく謙信の遣いである。
自分でも言っていたが、なんせ顔を覆う黒い頭巾には「毘」、の文字が白色で書かれているのだ。
疑う余地などない。
急に現れたそいつは、男か女かもわからぬ声音で、
「甲斐の虎、武田信玄殿に上杉謙信より、書簡を預かっておりまする。」
そう言ったあと、謙信の遣いことあすかは、懐から書簡を取り出し信玄に渡した。
信玄は正体不明の遣いから黙ってそれを受け取り、読み始めた。
しばらくしたあと、信玄は謙信独特の美しい仮名文字で書かれた書簡から目をはずした。
「そうか……。」
「あーお館様?どうかされましたか。」
佐助がすかさず声をかける。
そんななか、幸村はあすかを凝視していた。
独特の形をした茶色の眉毛が、あすかの正体を見破ろうと努力しているのか眉間によっている。
「貴殿は、何者に御座りまするか…?」
真剣な眼差しを向ける幸村の目をあすかは頭巾越しに見た。
じりじりと滲み出ているのは、彼の火属性のオーラなのか、熱気なのか、好奇心なのか。
あすかは「幸村殿…でしたよね」と言った。
そして幸村の目をしっかり捉えて口を開いた。
「貴殿はまだ知らなくて良いかと存じまする。いずれここにいる方全員が、俺の正体を知ることになるでしょうから…、それに、次に貴殿にお会いしたのならば、改めて自己紹介くらいいたしますよ。」
一口にまくしたてると、幸村のみならず信玄、佐助も正体を明かそうとしないあすかに少々ムッとした。
幸村は、やはり男か女か区別のつかないおかしいな頭巾を被った忍をもう一度見た。
どうやら、断固頭巾を取らないらしい。
「そうでござったか…。某、また貴殿と会えることを楽しみにしているでござる!」
相手に正体を明かす気がないのなら、引き下がるほかあるまい、と幸村は座布団の上におとなしくおさまった。
開け放された窓から吹き抜ける夏の生温かい風が、あすかの頬をかすめた。
今日の甲斐の天気は信玄殿と幸村殿にそっくりだ。
更には2人の赤い衣装がなんとも言えない。
そろそろお暇しようとあすかは開け放された扉の前に来た。