第1章 いつもの朝
越後の翼
かすがは「うつくしきつるぎ」
あすかは「うつくしきつばさ」
かすがは、主人にいつも寄り添い、守る"懐刀"。
彼女は主人に縛られる。
彼女はその刃で、主君と共にある。
あすかは、越後を守り、敵から遠ざける、強いて言うなれば"霧"。 彼女は主君すらも縛ることができない。
彼女はその翼で、乱世をも自由に飛び回る。
彼女が望まない限り、彼女は誰にも縛ることができない。
自由な彼女は、指の隙間から風のようにすり抜けていく。
あすかには、翼が生えている。
無論、彼女に本物の鳥のような翼など生えているわけがない。
だが、彼女と知り合った者のほとんどが、そう思ったのだ。
"あの子の背中には、まるで翼でも生えているようだね。しかも、途方もなく大きい……。"
一体、どこへ飛んでいくんだい?
一体、誰の元へ?
あすかに鳥籠は似合わない。
謙信に仕えていながらも、彼女は基本的に自由だ。
何処で何をしていようと、いつ帰ってきても、上杉謙信は何も言わない。
謙信は、短い間ではあるが分かってしまったのだ。
あすかという人間は、自由に生きてこそ美しい、ということに。