第3章 ドS彼氏、手当てする
「ちょっ! しゅ、愁夜くん!?」
「おい、暴れるな。……じっとしてろ」
今の私は愁夜くんにいわゆる"お姫様抱っこ"をされている状態。
じたばた暴れて抵抗するが、落ちそうなので大人しく彼に掴まることにした。
「スピード出すから、落ちねぇようにしっかり掴まってろよ」
今からこの状態で走るのだと思うと少し怖い。
だから私は、彼の首に手をまわし強く抱き締めるようにして、ぎゅっと目を瞑った。
すると、彼は私の気持ちを察したのか、私の耳元で静かに囁く。
「……大丈夫だ。しっかり支えてやるから安心しろ」
そんな彼の囁きは私の心を落ち着かせるものだった。
彼は一度私の体を支え直すと、勢いよく走り出した。
頬にあたる風が心地よくて恐怖心など全くなかった。
そして___
『赤組が一位でゴーーールッ!!そして、まさかの借りた人にお姫様抱っこされてゴールとは、前代未聞!!いや~それにしても、大胆ですね~』
わああっ!っと、歓声が起きる。
愁夜くんはそんなことは全く気にせず、グラウンドから出て、校舎の方へ向かっていく。
お姫様抱っこの状態で。
「あ、あの~愁夜くん?そろそろ下ろしてくれないかなぁ?」
私は上半身を彼から離してそう言ってみるが、
「……何言ってんの、お前。まだ歩けねぇだろ?
保健室まで、俺が運んでやるよ」
そう返されたので、これ以上反論出来なかった。
さっきから思うけどこの状態、物凄く恥ずかしい…………。
早く下ろしてほしいなぁ…………。
…………でも
「……ありがと……」
そうお礼を言うと、彼は少し驚いた表情で私を見てきた。
「あのね、私こういう体育祭とかで一位になったことがなくて……。その……足、遅いから……。
……だから、今日一位になれて、凄く嬉しいんだ……。
愁夜くんのおかげだよ。……ありがとう」
私は彼の瞳をみつめて笑った。
すると、彼は私から目線を外して、呟く。
「…………っ……可愛すぎ、だろ…………」
小さい声だったが私にはしっかりと聞こえた。
彼の頬がほんのり赤くなっているのを見て、つられて私の顔も熱くなる。
……こんな愁夜くん、初めて見るなあ……
「……ふふっ」
私は新しい彼を知れて嬉しくなり、つい頬が緩んだ。