第3章 ドS彼氏、手当てする
あの時見せた顔は何だったのだろうか。
…あの顔はまるで別人みたいだった。
今でもあの不敵な笑みを思い出すだけで身震いする。
でも、きっと……
「あ、あぁ。愁夜くんはもう大丈夫だよ。あの時は…何かあったんじゃない? 機嫌悪かったとかさ」
……もうあんなことはない。
そう彼を信じていたから、私は笑顔を七緒に向けた。
…というか、"あれは彼の本性じゃない"と信じたかった。
「そう?それならいいけど……。
何かあったら、いつでも相談してねっ!」
じゃあまたね~、と七緒は笑顔で手を振りながらこの場を去っていった。
そんな姿に思わず笑みがこぼれる。
やっぱり、七緒は良い友達だなぁ……。
私がさっきまでいた場所へと戻ろうとしたその時、
「あ~。やっと終わった…」
さっきまで話題になっていた彼がグラウンドの方から来た。
「愁夜くん!お疲れ~。どうだった?」
「あぁ。まぁ、勝てたんだけどさ、俺1枚も取れずに自分のが取られちまったんだよな……。
何か、悔しい……」
彼は私が七緒と話していた時に騎馬戦を行っていたみたいだった。
体育祭なんてめんどくせぇ……、とか言ってたけど……。
「愁夜くんって、意外と負けず嫌いなんだね」
「…まあな。めんどくせぇけど、やるからには負けられねぇからな」
彼は爽やかに微笑む。
こんなかっこいい彼が、あんなだなんて
……絶対に、嘘。
きっと、何かの間違いだ。
私はそう願っていた。
でもそんな願いは
……届かずに、儚く消えていくことになるのだった。