第107章 恋した記憶、愛した事実《28》混合side
「なっ…!」
「毎日陽菜の部屋へ行き、陽菜の体調を案じてはいるようだが、それ以外に陽菜に何かしているのか?」
「それは……」
「惚れた女を慰められもしないくせに、口を出すな」
「っ………」
痛いところを突かれ、言葉が出ない……
確かに、毎日何度かあの娘の部屋へ行っている。
だけどそれは、あの娘の体調を診るためや、夜中の警護のため……
秀吉さんや政宗さんたちみたいに、他愛ない話をして、あの娘の不安を取り除くことはほぼ出来ていない……
「(……あの娘の笑顔が見たくて……あの娘の不安を取り除けるよう、俺に出来ることを、ひたすらやろうと意気込んでたはずなのに………)」
自分は何一つ出来ていないのだと、信長様の言葉で自覚する。
反論などを言う力もなくなり、信長様の眼から逃れるように、視線を外した……
そんな俺の姿に、信長様は俺の着物から手を離し、文机の上の書簡に目を通していく。
「もし、貴様に何かいい案が浮かんだなら、光秀が迎えに行く前に陽菜の部屋へ行け。無ければ予定通り陽菜を天主へ連れて越さす。そして朝まで天主からは出さん。」
「っ……!」
「話は終わりだ。わかったら出ていけ」
そう言うと、今度こそ俺の方を見ることはなく、書簡に目を走らせていく信長様。
その姿に、もう話すことは無理だと判断し、俺はそっと文机から手を離した……。
「…………失礼、します…」
ポツリと溢れた退室の言葉は、自分でもやっと聞き取れるほどの小さな声。
信長様の顔を見ることなく、俺は天主を出ていった。