第105章 恋した記憶、愛した事実《26》家康side
「あぁ…。この髪の毛、陽菜の髪の毛じゃないか?」
「なっ!?確かに彼女は黒髪ですけど、それが彼女のものだとは……そもそも、彼女は部屋にいなかったじゃないですか!!」
「落ち着け。もちろん可能性の話だ。褥の用意をした女中のものである可能性もある。だが、この髪の毛があった褥は温かった。なのに従者はまだ休んでいなかったと言っていた。休んでいないのに、褥が温かいのはおかしいだろう。」
「それは……確かに…」
「従者たちの部屋に隠していたが、俺たちが猫探しと称して部屋の中に入ってきたことに慌て、どこか別の場所に移動させたのかもしれん。あくまでも可能性の話だがな……。とにかくすぐに信長様に報告だ。」
「…………わかりました……」
すぐに光秀さんは俺に背を向け、歩きだした。
俺は、一度だけ鬼原の部屋へと顔を向けたが、すぐに顔を戻し、光秀さんの後を歩いていった。
光秀と家康の姿が見えなくなると……
……………………スー……………パタン…
鬼原の部屋から、従者の1人が顔を出し、辺りを見渡すと、静かに襖を閉める。
「…………鬼原様、明智殿と徳川殿が行きました…」
「やっと行きおったか。猫探しなどと言って、邪魔しおって…!まぁ、あれだけ探せば、もうここへは戻ってこんだろう。お前たち!何人かは部屋に残り、他は部屋の前で奴らが戻ってこないか見張っておけ!」
「「承知しました…」」
そう言って、部屋に残る従者以外が、鬼原の部屋を出る。
数人の従者が部屋から出ると、鬼原は鼻息を荒く、部屋の真ん中に敷かれている褥に近づき、掛布を剥ぐ。
「ぐふふふ……遅くなったが、今から楽しむ時間にするかのぉ………」
嫌な笑みを浮かべながら、褥の上に寝かされた陽菜へと、手を伸ばしていった。