第105章 恋した記憶、愛した事実《26》家康side
「(………ちっ……いないか………)」
またしても、もぬけの殻状態に、内心で舌打ちをして、戸棚を閉める。
部屋を見渡しても、他には人が隠れるようなところはない。
「(………風呂敷も、鬼原みたいに大きくないしな…)」
鬼原の風呂敷が大きすぎるだけで、従者たちの持っている風呂敷は、ごく普通の大きさ。
もちろん、人なんか入るわけない。
「(……この部屋にはいないだろうな)」
キョロキョロと部屋中を見渡す。そもそも、家具などがないこの部屋には、全くといっていいほど、隠れるところがない。
天井を見ていたい光秀さんも、顔をおろして、小さく首を横に振る。
その行動に、気づかれないように、息をはくと………
………………………………………カタ…………
「…………?」
廊下の方から、すごく小さいが何か音が聞こえたような気がして、光秀さんから廊下の方へ視線を移す。
……………………………………………
だけど、何も音は聞こえず、静寂に包まれていた。
「(……気のせいか……?)」
確かに聞こえたと思ったんだが……風の音だったんだろうか………
「この部屋にもいないようだ。邪魔したな。」
光秀さんが、従者たちに声をかけ、部屋を出ていく。
俺は、さっきの音がなんとなく気になりながらも、従者たちの部屋を出て、もう一部屋隣の従者たちの部屋へと向かった。