第98章 恋した記憶、愛した事実《19》
パッ。と顔をあげると
「なんて顔してんだ。お前らしくねー。」
「へ?」
「落ち込んでる顔、お前には似合わねーぞ。いつもみたいに笑ってろ。」
そう言って、政宗にわしゃわしゃと頭を撫でられる。
「わっ!?」
「まぁ、お前が落としたぷりんは、駄目になったが、他のやつは大丈夫そうだったぞ。だからそこまで落ち込むな。なっ!」
「(……政宗…)」
落ち込んでる理由とかを聞かずに、ニカッと笑った政宗。
いつもなら、自分の不注意でこんなに落ち込まない……
家康と会えなくて、話せなくて……記憶も戻らないから気がせって……手持無沙汰だからって、毎日ずっと動き回って、変に気が空回りしていた……。
家康の記憶が戻らなかったら……日に日にその不安は大きくなっていた……
そう思わないように、必死になってたのかもしれない。
だけど、私が無理をしたからって、家康の記憶が戻るわけじゃない。
少し落ち着くことを、秀吉さんと政宗が教えてくれたような気がした。
「…うん。……ありがとう…」
政宗のおかげで、少し気持ちが励まされた。
「気にすんな」
そう言って、政宗は、また頭を撫でた。
今度はわしゃわしゃじゃなくて優しく……。
「ぷりんは冷やしといたらいいんだろ?ならその間に手当てするぞ。」
「え?わ!」
手当てのために、さっきみたいに政宗に手首を掴まれ、引っ張られるように、厨から出ていった。