第80章 恋した記憶、愛した事実《1》
姉妹が、家康、秀吉と恋仲になって1年
秀吉の御殿、際奥の部屋………
前の廊下で………
「…………」
秀吉は無言で廊下を早足で歩いている。
「秀吉、少しは落ち着け。」
「茶でも淹れてやろうか。」
「政宗様、お茶なら私が……」
「やめろ。ただでさえ大変なときに、面倒ごと増やすな。俺が淹れる。」
廊下に面した襖を開けて、織田軍の武将全員が廊下を何往復もしている秀吉に声をかける。
「お前ら……落ち着いてられるか!今、香菜が頑張ってるときに、茶なんて………」
「ああぁぁぁぁーーー!!!!」
びくっ!
「香菜っ!あぁ……俺は何もしてやれないのかっ……」
香菜の叫び声を聞いて、顔を青ざめ、廊下に手をつき項垂れる。
「秀吉。貴様がそんなのでどうする。香菜と夫婦になりたい。と言ってきた貴様の威勢はどこにいった。」
「信長様……」
「もうすぐ父親になるのだ。狼狽えるな。」
「っ……御意っ…!」
その言葉に、目が潤みはじめた秀吉。歯をくいしばって、涙が出るのを堪えた。
「そういえば、家康。陽菜はどうした?」
「香菜と一緒に部屋に入ってますよ。香菜の出産の手伝いをしてるそうです。」
武将たちは、閉じられている襖に目をやった。