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外科医・牛島若利

第3章 オペナース


「緊張してます?」

こそっと声を掛けてきた赤葦に首を振る羽音は、機材をそろえて大平へ受け渡す。

「私は木兎先生につきます」
「俺は、周りで指示を出す。お前が若利に付け、山形に木兎先生についてもらう」
「でも…」

大平に手渡されたグローブを受け取り立ち尽くす羽音。
オペ着の準備をしている牛島の方へ向かって背中を押される。
迷っている暇はない…決心と状況が羽音の足を動かした。

牛島の背後に回り、彼のオペ着着用の介助に入る。

「先生…」
「最善を尽くす。それだけだ」

羽音の言葉を遮るように声を掛けた牛島。

「麻酔かけるぞ」

聞きなれない黒尾先生の声でそれぞれ、持ち場に入る。

「俺と天童、仲悪いって言われますけど…まぁ仲良くはないですけど、それでも悪い奴じゃないの知ってますし、死んでもらっちゃ困るんで」

赤葦は木兎に合わせて照明の準備をしながら話を続けた。

「まぁ、殺しても死ななそうですけどね」

この状況にしてこの言葉を発せられるのは、相当の強さと自信を持っている証拠だ。

「天童は俺の右腕だ。殺さん」

牛島と木兎が視線を合わせ頷きあうと、スッとその場の空気が変わる。

「んじゃぁ、今から胸腹部同時開手術を開始する。チームワーク乱すなよ~」

木兎の声で開始された手術、術灯の光とモニターのゆっくりと整った音が脳内に広がる。

「春になったら天童さんとお花見に行く約束をしました。楽しみにしています」

牛島にメスを渡しながら羽音が彼に微笑みかける。

「皆でいく事にしよう」

受け取った牛島もそう答えた。
対面でメスを握っていた木兎もそちらをチラリと覗く。

「俺も行きたいなぁ」
「木兎先生集中してください」

赤葦の容赦ない声掛けに、背後にいた黒尾がニヤリと笑った。

手術最中を告げる赤色灯が灯る手術室の前では瀬見がその悔しさを力の入らない手で握りしめていた。
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